するごちそうめがけて、まい下りるのが見られた。
 船の舳《とも》が向いている方に、ぼんやりと雲か島か分らないものが見えていたが、それは陸地だと分った。左右にずっとのびている。そうだ、あれだ、イタリア半島なのだ。するとこの船はイタリア半島のどこかの港にはいるのにちがいない。一体どこにつくのだろうか。
 隆夫のたましいは、もうすっかり大胆《だいたん》になっていたので、マストをはなれて下におりてきた。
 そして船橋《せんきょう》へとびこんだ。そこには船長と運転士と操舵手《そうだしゅ》の三人がいたが、誰も隆夫のたましいがそこにはいってきたことに気のつく者はいなかった。
 その運転士が、航海日記をひろげて、何か書きこんでいるので、そばへ行って見た。その結果、この汽船は、対岸《たいがん》のバリ港へ入るのだと分った。
 やがてバリ港が見えてきた。
 小さな新興《しんこう》の港だ。カッタロ港とは全然おもむきのちがった港だった。そのかわり、町をうずめている家々は、見るからに安普請《やすぶしん》のものばかりであった。戦乱《せんらん》の途中で、ここを港にする必要が出来て、こんなものが出来上ったらしい。殺風景
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