意味だけは分った。
 そして、ついにこの場所がどこであるかという見当がついてきた。それによると、ここはバルカン半島のどこかで、そして割合にイタリアに近いところのように思われる。ユーゴスラビア国ではないかしらん。もしそうなら、アドリア海をへだててイタリアの東岸《とうがん》に向きあっているはずだった。
 どうしてこんなところへ来てしまったんだろう。


   霊魂《れいこん》の旅行


 だんだん日がたつにつれ、隆夫のたましいは、たましい慣《な》れがしてきた。はじめは、どうなることかと思ったが、たましいだけで暮していると、案外気楽なものであった。第一食事をする必要もないし、交通禍《こうつうか》を心配しないで思うところへとんで行けるし、寒さ暑さのことで衣服の厚さを加減《かげん》しなくてもよかった。そして、睡りたいときに睡り、聞きたいときに人の話を聞き、うまそうな料理や、かわいい女の子が見つかれば、誰に追いたてられることもなく、いく時間でもそのそばにへばりついていられた。もっとも、そのうまそうな御馳走を味わうことは、たましいには出来なかったが……。
 そういうわけで、隆夫のたましいは、一時東京
前へ 次へ
全96ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング