である。ねむりと目ざめ。不安におちいることと大自信にもえること。人事不省と覚醒《かくせい》。酔《よ》っぱらいと酔いざめ。そのほか、いろいろとあるが、このようにたましいというやつは、いつも敏感《びんかん》で、おどおどしており、そして自分からでも、また他からの刺戟《しげき》によっても、すぐ簡単に状態を変える。
 とにかく、彼のたましいがわれにかえったとき、「おやおや」と起きあがってあたりを見まわすと、見なれないところへ来ていることが分った。
 そこは、枯草《かれくさ》がうず高くつんであるすばらしく暖かな日なただった。ゆらゆらと、かげろうが燃え立っていた。その中に、隆夫の霊魂は立っているのだった。彼の霊魂も、かげろうと同じように、ゆらゆら動いているような気がした。
 前方を見ると、美しい大根畑が遠くまでひろがっていた。まるでゴッホの絵のようであった。
 うしろの方で、モーという牛の声がした。うしろには小屋が並んでいた。そのどれかが牛小屋になっているらしい。
 かたかたかたと、いやに機械的なひびきが聞えてきた。ずっと西の方にあたる。その方へ隆夫の霊魂はのびあがった。トラクターが動いているのだっ
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