は一層むずかしかった。
だが、第十号としては、すこしぐらい人々から怪しまれることは、がまんするつもりだった。それよりも、彼がねらっていることは、名津子に近づくことだった。名津子の霊魂にぴったり寄りそっていたいばかりに、彼はこの思い切った行動を起したのだ。しかしながら、彼の筋書《すじがき》どおりに、万事がうまくいくかどうか、それはまだ分らない。
それはそれとして、一方、霊魂第十号のために肉体から追い出された隆夫の霊魂は、一体どうなったのであろうか。
彼の霊魂は、肉体と同じに、一時もうろう状態に陥っていた。いや、時間的にいえば、肉体の場合よりもはるかに永い間にわたってもうろう状態をつづけていた。第十号が、彼の肉体にはいりこんで、三木健の家を訪問してぺちゃくちゃしゃべっているときにも、隆夫の霊魂は、まだもうろうとして、はてしなき空間をふわついていた。
彼のたましいが、われにかえったのは、それから十四日ののちのことだった。
たましいが、われにかえるというのは、おかしないい方であるが、肉体の中にはいっているときでも、たましいというやつは、よく死んだようになったり、生きかえったりするもの
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