を抱えて笑った。
というわけは、玄関の扉をあけてみると、そこに立っているのは余人にあらず、仲よし友達のひとりである一畑隆夫《いちはたたかお》であったから。その隆夫が、なんだって朝っぱらからやってきて、この鹿爪《しかつめ》らしい口のききかたをするのか、それは隆夫が三木をからかっているのだとしか考えられなかった。
「これはこれは健君。失敬をした。許してくれたまえ。姉さんに会いたいんだがね、よろしくたのむ」
隆夫は、三木が笑ったときに、どういうわけかあわてて逃げ腰になった。が、すぐ立ち直って、このように応対《おうたい》をした。
三木は、べつに隆夫のことを何とも思っていなかった。
「うん。それじゃ今母に知らせてくるからね。ちょっと待っていてくれ」
「いや、待てない。すぐ会いたい」
隆夫はひどく急いでいる。三木は、隆夫のおしの強いのに、すこし気をわるくした。だが大したことではないと、三木はすぐ自分の気持を直した。
「でも、病人だからね、様子を見た上でないと、かえって病気にさわると悪いから」
「じゃあ早くしてくれたまえ」
「よしよし」
三木は母親のところへとんでいって、今、隆夫君が来てこ
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