諾《しょうだく》していないぞ。それはともかく、人殺《ひとごろ》しみたいに、ぼくのくびをしめるとはなにごとだ」
 隆夫は苦しい息の下から、あえぎあえぎ、相手をののしった。
「はははは。はははは」
 相手は、ほがらかに笑いつづける。隆夫は腹が立ってならなかった。しかし自分の意識が刻々うすれていくのに気がつき恐慌《きょこう》した。
「はははは。もうすこしの辛棒《しんぼう》だ」
「なにを。この野郎」
 隆夫は、残っているかぎりの力を拳《こぶし》にあつめ、のしかかってくる相手の上に猛烈なる一撃を加えた――と思った。果して加え得たかどうか、彼には分らなかった。彼は昏倒《こんとう》した。


   早朝の訪問者


 その翌朝《よくあさ》のことであった。
 三木健が、自分の家の玄関脇の勉強室で、朝勉強をやっていると、玄関に訪《と》う人の声があった。
 三木はすぐ玄関へ出て扉をあけた。
「お早ようございます。名津子さんの御容態《ごようだい》[#ルビの「ごようだい」は底本では「ごようたい」]はいかがですか。お見舞にあがりました」
「はッはッはッ。よしてくれよ、そんな大時代な芝居がかりは……」
 三木は腹
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