年もそうしていてもらえばいいんだ。なんとやさしいことではないか」
 あやしい影は、隆夫が目を白黒するのもかまわず、奇抜《きばつ》な相談をぶっつけた。
「だめだ。第一、ぼくの霊魂をぼくの肉体から抜けといっても、ぼくにはそんなむずかしいことはできない。それにぼくは現在ちゃんと生きているんだから、霊魂が肉体をはなれることは不可能だ」
「ところが、そうでなく、それが可能なんだ。そして又、君の霊魂に抜けてもらう作業については、すこしも君をわずらわさないでいいんだ。僕がすべて引き受ける。君はただそれを承知しさえすればいいんだ。めったにないふしぎな経験だから、後で君はきっと僕に感謝してくれることと思う。承知してくれるね」
 隆夫はこの話に心を動かさないわけでもなかった。しかし、不安の方が何倍も大きかった。もっと相手が、自分に十分の安心をあたえるように説明してくれたら、一カ月やそこいらなら霊魂だけでとびまわってみるのもおもしろかろうと思った。
 が、そのときだった。隆夫は急に胸苦《むなぐる》しさをおぼえた。はっとおどろくと、あやしい影が隆夫のくびをしめつけているではないか。
「なにをする。ぼくはまだ承
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