いぶん落ちついてきたようだ。えらいぞ、隆夫君」
 あやしい姿は、隆夫をほめた。
「君は何物だ。ぼくの実験室へ、無断《むだん》ではいって来たりして……」
 このとき隆夫は、はじめて口がきけるようになった。
「僕のことかい。僕は大した者ではない。単に一箇の霊魂《れいこん》に過ぎん」
「れ、い、こ、ん?」
「れいこん、すなわち魂《たましい》だ」
「えッ、たましいの霊魂《れいこん》か。それは本当のことか」
 隆夫はたいへんおどろいた。霊魂を見たのは、これが始めてであったから。
「僕は霊魂第十号と名乗っておく。いいかね。おぼえていてくれたまえ」
「霊魂の第十号か第十一号か知らないが、なぜ今夜、ぼくの実験室へやって来たのか」
 隆夫は、まだ気分がすぐれなかった。猛烈に徹夜の試験勉強をした上でマラソン二十キロぐらいやったあとのような複雑な疲労を背負っていた。
「君が呼んだから来たのだ。今夜が始めてではない。これで二度目か三度目だ」
 あやしい影は、意外なことをいった。
「冗談をいうのはよしたまえ。ぼくは一度だって君をここへ呼んだおぼえはない」
「まあ、いいよ、そのことは……。いずれあとで君にもはっき
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