なかった。
それで脳波の収録のところを再生してみることにした。つまり、もう一度脳波にして出してみようと思ったのだ。
隆夫は、大急ぎでその装置を組立てた。
それから脳波を収録したテープをくりだして、その送信機につっこんだ。
もちろん隆夫には、その脳波は聞えなかったけれど、検波計《けんはけい》のブラウン管で見ると、脳波の出力《しゅつりょく》が、蛍光板《けいこうばん》の上に明るいあとをひいてとびまわっているのが見えた。
隆夫は、この脳波を、いかにしてことばに変化したらいいかと考えこんだ。
その間に収録テープは、どんどんくりだされていた。脳波は、泉から流れ出す清流《せいりゅう》のように空間に輻射《ふくしゃ》されていたのだ。
それを気に留めているのか、いないのか、隆夫は腰掛にかけ、背中を丸くして考えこんでいる。
そのとき隆夫のうしろに、ぼーッと人の影が浮び出た。若い男の姿であった。その影のような姿は、こまかく慄《ふる》えながら、すこしずつ隆夫のうしろへ寄《よ》っていく。
「もしもし、一畑《いちはた》君。君の力を借りたいのです。ぼくに力を貸してくれませんか」
陰気《いんき》な、不
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