よるのであるが、そういう点については、隆夫は今までによく吟味《ぎんみ》してあったから自分のところの受信機はほとんどゆがみを生《しょう》じない自信があった。
だからこの音声のゆがみは、その電波が受信機にはいる前に既に持っているゆがみなのだ。
隆夫はここまで推理を進めていって、ふうーッと溜息をついた。推理は、やっと半道《はんみち》来たばかりだ。その先が、難物《なんぶつ》だ。とても手におえそうもない。
が、勇敢にぶつかろう。
音声ゆがみが、電波自体の中に既に含まれているものとすれば、それはどうしたわけでゆがみを生じたものであろうか。
送信装置がよくないために、そこにゆがみを生ずる原因があると考える。これはめずらしくないことだ。拙劣《せつれつ》な変調装置を使うとか、マイクロホンがよくないとか、増幅装置《ぞうふくそうち》がうまいところで働いてないとか、そういう素因《そいん》によって音声はゆがめられる。
だが、権威ある送信局から出るものは、そんな劣悪《れつあく》なゆがみを持っていないと断定していいだろう。素人の作った送信機だとか、何かの理由で、故障あるいは不調の送信機をやむを得ず使わな
前へ
次へ
全96ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング