力でそれと分った。その上昇がまだ続けられているときのことだったが、乗組の全員が頭にかけている受話器に警報が鳴りひびいた。
「国籍不明ノ快速飛行機ガ本機ヨリ一キロ後方ニ尾行《びこう》シテ来ル」
本機を尾行している国籍不明の飛行機とは一体何者が操《あやつ》るものであるか。
「イマ尾行機内ヲ暗視機《あんしき》デ映写幕上ニ写シ出ス乗組員ニ注意!」
と、続いて警報が聞えた。と、帆村の目の前に映写幕がスルスルと降りてくるが早いか、三人の男たちの顔がうつった。一人は操縦し、一人はラジオ器械を操り、一人はこっちの方を睨んでいた。その男の顔を見た帆村はハッとして、
「ああ『右足のない梟《ふくろう》』だ!」と叫んだ。
「うん、やっぱり彼奴《あいつ》が尾行してきおった。彼奴が仲間と連絡しないうちに早く片づけて置こうじゃないか」
と牧山大佐は送話器の中へ怒鳴りこんだ。
「怪力線発射用意」
と号令が響く。「撃てッ!」映写幕に映っていた「右足のない梟」外二名の男たちは俄《にわ》かに苦悶の表情を浮べた。とたんに横合から白煙が吹きつけると見る間に、焔《ほのお》がメラメラと燃えだした。そして三人の顔は太陽に解ける雪達磨《ゆきだるま》のようにトロトロと流れだした。それが最期だった。暗視機のレンズはチラチラと動きまわったが、そこには白煙の外、なにも空中には残っていなかった。
「敵ながら惜しい勇士じゃったが……これも已《や》むを得ん。わが軍の怪力線の煙と消えたので彼もすこしは本望じゃろう」
そういって牧山大佐の声が受話器を通じて感慨無量《かんがいむりょう》といった顔をしている帆村の耳に響いた。
それから巨人機は恐ろしいほどスピードを増して、時間にして五、六時間も飛行した、哨戒員《しょうかいいん》は暗視機で四方八方を睨み、敵機もし現れるならばと監視をゆるめなかった。機関砲の砲手は、砲架《ほうか》の前に緊張そのもののような顔をしていた。しかし其《その》後は何者も邪魔をするものが現われなかった。
「牧山大佐どの。もう行先だの目的だのを話して下すってもいいでしょう」
と帆村は大佐の耳に口を寄せて云った。
「君の方がよく知ってるじゃないか」
「やはりベーリング海峡ですね」と帆村はズバリといった。「プリンス・オヴ・ウェールス岬とデジネフ岬のある中間でしょう」
「正《まさ》にそのとおり!」と大佐は帆村の手
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