」
「いや、それは出来ない。しかしこれだけは約束をして置こう。なにか面白い行動を起すようなときには、君を必ず一緒に連れだってゆくから……」
そう言い捨てて牧山大佐はそそくさと部屋を出ていった。帆村探偵は写真のある部屋にただひとり待っていた。思えば銀座の鋪道で偶然見た婦人の怪死事件から発して、かずかずの冒険をくりかえし、その結果、はからずも釣りあげた敵の密書から、いまや重大なる行動が起されようとしているのだ。一体なにごとが敵国の手で計画されているのだろう。あの二つの地点で、これから何が始まろうとしているのだ。空前の土木工事にはちがいないが、かの堰堤《ダム》はいかなる秘密を蔵《ぞう》しているのであろうか。
帆村はずいぶん永く待たされた。既に食事を配給せられること二度、もう我慢がならぬから、辞去しようと思ったけれど、牧山大佐の言葉を信用して、もう少し待とうと頑張りつづけた。そして彼の焦躁《しょうそう》がどうにも待ちきれなくなり、遂に一大爆発をしようとした午後九時になって、廊下に跫音《あしおと》も荒々しく、待ちに待った牧山大佐がひどく興奮した面持をして這入《はい》ってきた。
「ああ、牧山さん。どうも待たせるじゃありませんか……」
「まあ我慢してくれたまえ。いずれ後から何もかも分るよ……。さあその代り、直ぐ出発だよ。行先は乗った上でないと云えないが、よかったら君も一緒に行かんか」
「なに出発ですか。……連れていって下さい。どこでも構いません。地獄の際涯《さいがい》でもどこでも恐れやしません。ぜひ連れてって下さい」
帆村は莞爾《かんじ》として、牧山大佐のあとに随《したが》った。
大団円
牧山大佐が帆村探偵を自動車に乗せて案内した先は、帝都の郊外にある飛行場だった。車は真暗な場内の奥深く入って停ったが、そこには目の前に、夜光ペイントを塗った飛行機の胴体が鈍く光っていた。
「これは例の世界に誇る巨人爆撃機だな」
と、帆村は早くもそれと察した。巨人爆撃機なら、時速は五百キロで、航続距離は二万キロ、爆薬は二十|噸《トン》積めるという世界に誇るべき優秀機だった。一行はすでに乗りこんでいたものと見え、帆村たちが乗りこむと直ぐ爆音をあげて滑走をはじめ、まもなく機体はフワリと宙に浮きあがった。
巨人機はグングン上昇した。メートルもなにも見えないけれども、身体に感ずる圧
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