流線間諜
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)其《そ》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)青年探偵|帆村荘六《ほむらそうろく》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)これから君にちと[#「ちと」に傍点]
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R事件
いわゆるR事件と称せられて其《そ》の奇々怪々を極めた事については、空前にして絶後だろうと、後になって折紙がつけられたこの怪事件も、その大きな計画に似あわず、随分《ずいぶん》永い間、我国の誰人にも知られずにいたというのは、不思議といえば不思議なことだった。
だが、後に詳《くわ》しく述べるように、このR事件というのは実をいえば当時、国内問題のために非常な重大危機に立っていた某国政府当局が、その国家的自爆から免《のが》れる最後の手段として、相手もあろうにわが日本帝国に対して、試みた非常工作なのであった。もし其《そ》の怪計画が不幸にして曝露《ばくろ》するようなことがあれば其《そ》の計画の破天荒《はてんこう》な重大性からみて、日本帝国は直《ただ》ちに立って宣戦布告をするだろうし、同時に列強としても某国を人道上の大敵として即時に共同戦線を張らなければならないことになるのは必定《ひつじょう》であって結局某国としてはこの怪計画に関し極度に秘密性を保つ必要があったのである。
一体その怪計画というのはどんなことだったか? それはいま読者諸君の何人といえども恐らく夢想だにされないであろうと思うような実に戦慄《せんりつ》すべき陰謀だった。いずれ順序を追って述べてゆくうちにその怪計画の全貌が分る日が来るだろうが、そのときにはきっと筆者《わたくし》の今いった言葉の偽《いつわ》りではなかったことを知っていただけるであろう。
某国政府当局は、国運を賭《か》けたこの怪計画のために、特によりすぐった特務機関隊を編成して、丁度《ちょうど》一年前からわが国に潜入させたのだった。その計画の重大性からいっても、また派遣特務員の信頼するに足る技倆《ぎりょう》からいっても、この事件は目的を達するまで遂に全く秘密裡《ひみつり》におかれるのではないかと思われたのであるけれども、世の中のことというものはなかなかうまくゆかないものであって、運命の神のいたずらとでも云おうか偶然が作った極《ご》く瑣細《ささい》
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