し[#「わし」に傍点]の室の入口の前で停るが早いか、そう、声をかけたのだった。
「おう。誰かい」
「栗原《くりはら》です。倉庫係《そうこがかり》の栗原ですて」
「栗原? 栗原が、なんの用だッ」
「へえ、ちょっと工場の用なんで……」
「なにッ。工場の用て、どんなことだか云ってみろ」
「へえ、実は――」栗原は、言い淀《よど》んでいる風だった。「先日《せんじつ》お持ちになりました乙型《おつがた》スウィッチが、急に入用になりましたんで、いただきに参ったんですが……」
「スウィッチなんか、明日にしろ」
「ところが生憎《あいにく》、工場で至急使うことになったんで、直ぐ持って行かないと困るんでして、実にその……」
「よォし、いま入口を開けるから、ちょっと待て」
暫くして、わし[#「わし」に傍点]は、入口の扉《と》を、サッと開けた。
「どうも相済《あいす》みません」栗原は、わし[#「わし」に傍点]の顔を見るなり、ペコリと頭を下げた。
「お前、この間、そう云ったじゃねえか。このスウィッチは、当分《とうぶん》不用《ふよう》だから、いつまでもお使いなさい、とな」
「申訳がありませんです」栗原は、ひどく恐縮
前へ
次へ
全40ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング