西端《せいたん》まで、ゴーッと音をたてて横に動くのだった。
「おい、政《まさ》ッ!」わし[#「わし」に傍点]は、クレーンの運転手をやっている男を、人垣の中に呼んだ。
「へえ――」政は、紙のように、白い顔をして、おずおずと、前へ出てきた。
「クレーンが、真夜中に動き出すてのは、本当かな」
「わたしは、ナなんにも、存《ぞん》じませんです。しかし、クレーンのスウィッチは、必ず切って帰りますで、真夜中に、ヒョロヒョロ動き出すなんて、そんな妙なことが……」
 そこまで云った政は、発作《ほっさ》みたいな様子となり、言葉のあとをブツブツ口の中で呟《つぶや》いて、それから急に気がついたかのように、ワナワナ慄える両手を、周章《あわ》てて背後に隠したのだった。
「よォし。今夜は、一つ正体《しょうたい》を確かめてやろう。いいか、みんな夜中の十二時を廻ったら、裏門前に集るんだ!」


     2


 合宿所の、三階の、廊下を、パタパタと音をさせて、近づいてくる跫音《あしおと》があった。
「組長さん、おいでですか――」
 その跫音は、「舎監居間《しゃかんいま》」と書いた木札《きふだ》を、釘で打ちつけてあるわ
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