まらなく快感を唆《そそ》ったのだった。若い男は、クレーンが独《ひと》りで動き出す大恐怖《だいきょうふ》の前に、永い間、ひき据《す》えられていた。更《さら》に、戦慄《せんりつ》を禁《きん》じ得《え》ないクレーンの上へ、引張り上げられたり、又降ろされたりした。そこへ、突如として、女の自殺を聞いた。それには旦那どのも遽《あわ》てた位だ。若い男は、女の飛込んだ熔融炉目懸けて、駈け出して行った。彼も女の跡を追って、この炉の中で死のうと決心した。そう思うと、彼は脱兎《だっと》のように熔融炉の鉄梯子を、かけ上ったのだ。友人の一人が助けようとして、後から上ろうとすると、そこへ旦那どのが、飛び出して、彼をつきとばした。そして、旦那どのは、恨《うら》み重なる男のあとにつづいて梯子を上って行ったのだ。これを見ていた人々は喝采《かっさい》した。それもそうだろう。いやたった一人を除いてはネ。そいつは、工場の隅《すみ》から、コッソリこの場の光景を眺めていた俺によく似た男さ、はッはッはッ。だが、その男にも、旦那どのの復讐が、どのように行われるのか、見当がつかなかった。ひょっとすると、旦那どのは、わざと梯子昇りの速力
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