《スピード》を落として、(残念ながら、追いつけなくて、若い男を殺してしまった!)と云いわけするのかと思っていたが、見ていると、どうやら、そうではない。いや、それは、鬼のように恐ろしい計画だった。旦那どのの考えは若い男が一旦飛び込んで、熱鉛《ねつえん》のため赤《あか》爛れに爛《ただ》れたところで若い男の死骸をひっぱり出すことにあった。俺は旦那どのが、梯子の上で嬉しそうに笑っているのに感付いた唯一《ゆいいつ》の人間だったかも知れない。若い男は、彼の手を離れて、コンクリートの床の上に叩きつけられたが、二た眼と見られた態《ざま》じゃなかった。旦那どのは、別に咎《とが》められもしなかった」
「面白い話だなァ、若《わ》けえの」わし[#「わし」に傍点]は、静かに云った。「だが一つ腑《ふ》に落ちねえことがあるから尋ねるが、探険隊が工場の暗闇の中にいたとき、クレーンが轟々《ごうごう》と動いた。直ぐ灯《あかり》をつけたが、下のスウィッチは外《はず》れていた。いくら其の悪人が器用でも、電気なしで、あのクレーンは動かせないだろうぜ」
「そんなトリックに気がつかない俺ではないよ。その旦那どのは、クレーンを動かす
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