に、落ちてきた。そして、呀《あ》ッという間に、ヌラヌラと、顔や腕を撫でて、下へ墜落していった。それは、政の身体だった。辛うじてわし[#「わし」に傍点]が掴んだ政の身体だった。(これを離しては……)と私は懸命に怺《こら》えたが、その恐ろしい重力に勝つことが出来ず、遂《つい》にツルリと、わし[#「わし」に傍点]の指の間から脱けて、あいつ[#「あいつ」に傍点]の身体は、ヒラヒラと風呂敷のように、コンクリートの床を目懸けて、落ちていった。いや、全《まった》く、政の身体は風呂敷のように、舞いながら、墜ちて行ったのだった。わし[#「わし」に傍点]は、どうしたものか、急に笑いたくなって、クッ、クッ、ウフウフと、鉄梯子に、しがみついた儘《まま》、暫くは、動くことが出来ない程だった。
6
「これは横瀬さん。珍らしいね。さァ、こっちへ入ったり、入ったり」
わし[#「わし」に傍点]は、珍客の来訪にあって、だだっ広い、合宿の舎監《しゃかん》居間の一室へ招《しょう》じ入れた。
「今日は、何の御用かな」わし[#「わし」に傍点]は尋《たず》ねた。
「実は一つ聴いていただきたいことがあるのでして…
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