でに熔融炉《キューポラ》の縁《ふち》から上へ、上半身を出している。機会《チャンス》は、今を措《お》いて、絶対に無い。しかしわし[#「わし」に傍点]の手は、まだ三尺下にしか届かない。
ワンワン、ガヤガヤの声も、耳に入らなくなった。
政は身体を、くの字なりに、ぐっと曲げていよいよ飛びこむ用意をした。
「やッ!」
懸声諸共《かけごえもろとも》、わし[#「わし」に傍点]は、身体を宙に浮かせて、左手《ゆんで》をウンと、さしのべると、ここぞと思う空間を、グッと掴んだ。――
手応えはあった。
工場の屋根が、吹きとぶほど大きな歓声が、ドッと下の方から湧きあがった。
だが、こっちは、右手一本で、熔融炉の鉄梯子を握りしめ、全身を宙に跳ねあげたもんだから、左手《ゆんで》に政の足首を握った儘《まま》、どどッと、下へ墜《お》ちていった。右手を放しては、こっちが、たまらない。ガンと、横腹《よこばら》を、鉄梯子《てつばしご》に打ちつけたがそのとき、幸運にも右脚が、ヒョイと梯子に引懸った。
(しめたッ)
と思った瞬間、頭の上からバッサリ、熱くて重いものが、わし[#「わし」に傍点]を、突き墜《おと》すよう
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