…」横瀬は、例のモジャモジャ頭髪《かみ》に五本の指を突込むと、ゴシゴシと掻《か》いた。
「どんな話かしらぬが、言ってごらんなせえな」わし[#「わし」に傍点]はチラリと、置時計の方を見たが、もう午後十時に近かった。
「じゃ、聴いて貰いますか」そう云って横瀬は、莨《たばこ》を一本、口に銜《くわ》えた。「これは、俺《おれ》の知っている、或る男の、素晴らしい計画なんだ。ねえ、その男は、自分の情婦《おんな》を、若い男に失敬されちまったんだ。いや、おまけに、情婦というのが、若い男の胤《たね》を宿しちまった。いいですか。これが普通の場合だったら、旦那どの胤だと、胡魔化《ごまか》せるんだが、生憎《あいにく》と、その旦那どのというのは、女に子を産ませる力がないことが医学的に判っているのだ。それで、胎《はら》の子を、胡魔化しようもないので、若い二人は秘《ひそ》かに会って泣きながら相談した。いい智恵も見付からぬ裡《うち》に、女の身体はだんだんと隠せない程、変ってくる。とうとう仕方なしに、胎の子には罪なことだが、堕胎《だたい》をすることに決心をした。若い男は、堕胎道具と、薬品を、さるところで手に入れて、女を呼
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