》が、感ぜられるのだった。皎々《こうこう》たる水銀灯の光の下で仕事をする人々は、技師といわず、職工といわず、場内の一隅《いちぐう》に据えられた、高さ五十尺の太い熔融炉《キューポラ》の周囲《まわり》を取巻いて、一斉に上を見上げていた。熔融炉の側には、松の樹を仆《たお》したような大電纜《だいケーブル》が、長々と横《よこ》わっていたが、これは忘れられたように誰一人ついているものは無かった。
「駄目だァ、何にも見《め》えねえ」
「着物の端も、残っていねえよ」
そんなことを叫びながら、熔融炉の頂上に昇っていたらしい男工《だんこう》達が、悲痛な面持をして降りて来た。白い手術着を着て駈けつけた医務部《いむぶ》の連中も、形のない怪我人《けがにん》に対して、策の施《ほどこ》しようも無く、皆と一緒に、まごまごしているだけだった。
「どうも、お気の毒でしたが」工場長が、わし[#「わし」に傍点]の傍へ近づくと、興奮した語調で云った。「気がついたときは、おせいさんが、もう熔融炉《キューポラ》の、殆んど頂上まで、昇っていたんです。でも、それと気がついて、(停めろ、下りろ)と、下から叫びましたが、何も聞えない風で
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