、アレヨ、アレヨと云っているうちに、火焔《かえん》の中へ飛びこまれたようなわけで……」
わし[#「わし」に傍点]は、云うべき言葉もなかった。
「おせいさんは、覚悟の自殺を、やったらしいですよ。どうした訳か判りませんが」この工場の組長が、続いて口を挟《はさ》んだ。
そこへ、ドヤドヤと皆《みんな》を掻《か》きわけて、前へ、飛び出した者があった。
「ああ、死んじまった。おせいさん、俺を残して、何故死んでしまったのだ」
気が変になったように喚いているのは、クレーン係の政だった。
「オイ、政。どこへ行くんだ」政に追い縋《すが》っているのは、雲的《うんてき》や源太だった。
「おお、おせいちゃん。おれも、直ぐ行くよォ――」
「おい、待てと云ったら」
政は、恐ろしい力を出して、源太を投げとばすと、呀《あ》ッという間に、熔融炉《キューポラ》の梯子の上へ、ヒラリと飛び上った。
工場の人々は、まだ生々《なまなま》しい惨事のあとに続いて、どんなことが起ろうとしているかを、早くも悟《さと》って、戦慄《せんりつ》の悲鳴をあげた。
「早く、あの男を捉《つかま》えろ!」
「引ずり下ろせ、あいつは死ぬつもりだ
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