といって、入口の扉《と》の方へ、先を争って駆けだした。ガラガラと、重い鉄扉《てっぴ》が、遠慮会釈《えんりょえしゃく》なく、引き開けられる物音がした。
「おう、組長、大変だア」疳高《かんだか》い声で叫ぶものがある。
 わし[#「わし」に傍点]は、ギクリとした。
「組長」わし[#「わし」に傍点]の胸倉《むなぐら》に縋《すが》りついたのは、電纜工場《ケーブルこうじょう》の伍長《ごちょう》をしている男だった。「おせいさんが、大変だッ」
「なに、おせいが、一体どうしたというんだ」
「おせいさんが――」伍長は、苦しそうに言い澱《よど》んだ。「おせいさんが、熔融炉《キューポラ》へ、真逆《まっさかさま》に、飛びこんでしまった」
「熔融炉へ、飛びこんだ、というのかッ」
 わし[#「わし」に傍点]は、それを聞くなり、おせいの働いていた電纜工場めがけて、矢のように駆け出した。
 わし[#「わし」に傍点]のあとには、組下のものや、惨事《さんじ》を報《しら》せに来た連中が、バタバタと追いついて来るのであった。
 電纜工場の入口を一歩入ると、凄惨《せいさん》極《きわ》まりなき事件の、息詰まるような雰囲気《ふんいき
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