くは、何にも音がしねえ。(空耳《そらみみ》かな?)と思って、歩きだそうとすると、そこへ、キーイッとな、又聞えたじゃねえか。物音のする場所は、たしかに判った。第九工場の内部からだッ。(何の音だろう? 夜業《やぎょう》をやってんのかな)そう思ったのであっし[#「あっし」に傍点]は、顔をあげて、硝子《ガラス》の貼ってある工場の高窓を見上げたんだが、内部は真暗《まっくら》と見えて、なんの光もうつらない。(こりゃ、変だ!)俄《にわか》に背筋が、ゾクゾクと寒くなってきた。そこへ又その怪しい物音が……。恐《こわ》いとなると、尚《なお》聴きたい。重い鉄扉《てっぴ》に耳朶《みみたぶ》をおっつけて、あっし[#「あっし」に傍点]ァ、たしかに聴いた。キーイッ、カンカンカン、硬い金属が、軋《きし》み合い、噛み合うような、鋭い悲鳴だった」
「大方、工場に、鼠《ねずみ》が暴れてるんだろう」わし[#「わし」に傍点]は、不機嫌に云い放った。
「どうして、組長!」雲的《うんてき》はハッキリ軽蔑《けいべつ》の色を見せて、叫びかえした。「あっし[#「あっし」に傍点]にァ、あの物音が、どこから起るのか、ちゃんと見当がついてるの
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