りを云っているんだたァ、思えねぇ」
いつの間にか、わし達の周《まわ》りには、大勢の職工が、集ってきた。
「組長さん、それァ本当なんだ」別の声が叫んだ。
「なんだとォ――」おれは、その声のする方を見た。「てめえ[#「てめえ」に傍点]は、雲的《うんてき》だな。雲的ともあろうものが、軽卒《かるはずみ》なことを喋《しゃべ》って、後で笑《わらわ》れンな」
「大丈夫ですよ――」雲的《うんてき》は大いに自信ありげに、言葉をかえした。「それについちゃ、ちィっとばかり、手前《てめえ》の恥も、曝《さら》けださにゃならねえが、もう五日ほど前のことでさァ。徹夜勝負《よあかししょうぶ》のそれが、十二時を過ぎたばかりに、スッカラカンでヨ、場に貸してやろうてえ親切者もなしサ、やむなく、工場の宿直《しゅくちょく》、たあさんのところへ、真夜中というのに、無心《むしん》に来たというわけ。さ、その無心を叶《かな》えて貰っての帰りさ、通り懸《かか》ったのが今話しの第九工場の横手。だしぬけに、キーイッという軋《きし》るような物音を聴いた。(オヤ、何処だろう)と、あっし[#「あっし」に傍点]は立停《たちどま》った。暫《しばら》
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