さ》えつけた。「ちょっと電纜工場《ケーブル》へ寄ってくるから、五分間ほど、ここで待っていて呉《く》れ」
わし[#「わし」に傍点]は、間もなく出てきた。
電纜工場を通りすぎると、その先は、文字どおりに、無人郷であった。
漆黒《しっこく》の夜空の下に、巨大な建物が、黙々《もくもく》として、立ち並んでいた。饐《す》えくさい錆鉄《さびてつ》の匂いが、プーンと鼻を刺戟した。いつとはなしに、一行は、ぴったりと寄り添い、足音を忍ばせて歩いていた。
「うわッ!」
建物の軒下を伝い歩いていた男が、悲鳴をあげた。皆は、ギョッと、立ち停った。
「な、な、なんだッ」
「工場に、蟇《がま》がえるが出るなんて、知らなかったもんで……」
きまりわるそうな、低い声だった、
「ドーン」
二三間先の、鉄扉《てっぴ》が、鈍い音を立てて鳴った。
「ウウ、出たッ!」
「や、喧《やかま》しいやい!」
わし[#「わし」に傍点]は呶鳴《どな》った。蟇がえるを蹴飛ばした先生は、黙っていた。
ひイ、ふウ、みッつ!
やっと、第九工場の、入口が見える。
ぼッと、丸い懐中電灯の光の輪がぶっつかった。
錠前には、異常がない
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