子壜《ガラスびん》だった。それには、底の方に、三分の一ばかりの黒い液体が残っていた。
「さァ、こいつだ」わし[#「わし」に傍点]はソッと壜を横瀬に渡した。「最後に、お前さんから、教えて貰いたいのは」
「そうだね、これは――」横瀬は、十|燭《しょく》の電灯の光の下に、小さい薬壜を、ふってみながら、いつまでも、後を云わなかった。
「判らねえのかい」
「うんにゃ、判らねえことも、ねえけれど」
「じゃ、何て薬だい」
「そいつは、云うのを憚《はばか》る――」
「教えねえというのだな」
「仕方が無い。これァ薬屋仲間で、御法度《ごはっと》の薬品なんだ」
「御法度であろうと無かろうと、わし[#「わし」に傍点]は、訊《き》かにゃ、唯《ただ》では置かねえ」
「脅かしっこなしにしましょうぜ、組長さん。そんなら云うが、この薬の働きはねえ、人間の柔い皮膚を浸蝕《しんしょく》する力がある」
「そうか、柔い皮膚を、抉《えぐ》りとるのだな」
「それ以上は、言えねえ」
「ンじゃ、先刻みせた注射器の底に残っていた茶色の附着物《ふちゃくぶつ》は、この薬じゃなかったかい」
「さァ、どうかね。これは元々茶褐色の液体なんだ。ほら
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