、露路裏の、そのまた裏になっている袋小路《ふくろこうじ》のこととて、人通りも無く、この怪《あや》しげな振舞《ふるまい》も、人に咎《とが》められることがなかった。とにかく、家は留守と見えて、なんの物音もしなかった。わし[#「わし」に傍点]は、連《つ》れを促《うなが》して、裏手に廻った。
 勝手元の引戸《ひきど》に、家の割には、たいへん頑丈《がんじょう》で大きい錠前《じょうまえ》が、懸《かか》っていた。わし[#「わし」に傍点]は、懐中《ふところ》を探って、一つの鍵をとり出すと、鍵孔《かぎあな》にさしこんで、ぐッとねじった。錠前は、カチャリと、もの高い音をたてて、外れたのだった。
 わし[#「わし」に傍点]は、後を見て、横瀬に、家の中へ入るように、目くばせをした。
 障子《しょうじ》と襖《ふすま》とを、一つ一つ開けて行ったが、果して、誰も居なかった。若い女の体臭《たいしゅう》が、プーンと漂《ただよ》っていた。壁にかけてあるセルの単衣《ひとえ》に、合わせてある桃色の襦袢《じゅばん》の襟《えり》が、重苦しく艶《なま》めいて見えた。
「いいのかね。こう上りこんでいても」
 横瀬は、さすがに、気が引
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