し[#「わし」に傍点]の連れを、チラリと睨《にら》みながら、云った。「これから、何処へゆくんだい」
「お前こそ、どこへ行くんだい」
「ふン、見れば判るじゃないか。今夜は、徹夜作業があるんだよ」
「夜業か。まァしっかり、やんねえ」
「お前さんの方は、どこへ行くのさァ」その女は、一歩近よって、云った。
「ちょいと、この仁《じん》と、用達《ようた》しに」
「そうかい、あのネ」女は、口を、わし[#「わし」に傍点]の耳に近づけて、連れに聞かせたくない言葉を囁《ささや》いた。
「……」わし[#「わし」に傍点]は、黙って、肯《うなず》いた。
 女に別れると、後から、附いてくる横瀬がわし[#「わし」に傍点]に声をかけた。
「今の若いひと[#「ひと」に傍点]は、なかなか、美《い》い女ですネ」
「そうかね」
「何て名前です」
「おせい」
「大将の、なにに当るんです」
「馬鹿!」
 露路を二三度、曲った末に、わし[#「わし」に傍点]達は、目的の家の前へ来たのだった。
 わし[#「わし」に傍点]は、雨戸を引かれた、表の格子窓《こうしまど》に近づいて、家の内部の様子を窺《うかが》った。幸《さいわ》いこのところは
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