ぬ”――ということばが、深く一郎の心に、きざみつけられたものと見える。そこで、いよいよ実物設計にとりかかったわけである。
「どうも、見当がつかないなあ。どこを、ねらえばいいのかなあ」
 一郎は、すこし苦戦のていであった。
「とにかく、地面の下を、戦車が掘りながら、前進しなければならないんだから、つまりソノー……」
 つまりソノーで、困ってしまった。
 一郎は、気をかえて、本箱の間をさがしはじめた。
 やがて彼は、一冊の切抜帳を引張り出して、これを机の上に、ひろげた。この切抜帳には、ものものしい題名がついている。曰《いわ》く「岡部一郎戦車博物館第一号館」と!
 岡部一郎戦車博物館第一号館!
 いや、これは、他の人が読んだら、ふき出して笑うだろう。
 しかし一郎は大真面目であった。
 各|頁《ページ》には、新聞や雑誌から切り抜いた世界各国の戦車の写真が、ぺたぺたと、はりつけてある。そしてその下には、その戦車の性能が一々くわしく記入されている。
(この戦車が、みんな実物だったら、大したもんだがなあ)
 一郎は、切抜帳をひろげるたびに、そう思うのであった。
 なにも実物であるには及ばない。たし
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