が、いつものように始まった。
一郎たちの父親は、一昨年、病気で亡《な》くなった。だから、さびしい母親を、一郎をはじめ、四人の子供たちが、なぐさめ合い、元気をつけているのであった。
食事が終ると、子供たちは、母親のお手伝いをして、跡片付《あとかたづ》けだ。みんなが働くから、どんどん片付いていく。
その後は、みんなラジオの前に、あつまってくる。
だが、一郎は、その夜にかぎって、ラジオの前に出て来なかった。彼は、玄関においてある自分の机の前に坐りこんで、前に一枚の紙をのべて、しきりに首をひねっている。
紙の上は、まだ、まっ白だった。
「ええと、地下戦車というやつは、どんなところをねらって、こしらえればいいかなあ」
彼は、ひとりごとをいった。それで分った。彼は、いよいよ地下戦車の設計にとりかかったのである。察するところ、昼間、係長の小田氏からいわれたこと――“神に祈るのもいいが、ただ祈るだけじゃ、だめだ。また、考えているだけじゃ、だめだ。技術者という者は、考えたことを、早く実物につくりあげて、腕をみがき、改良すべき点を発見して、更《さら》にいい実物をつくり上げるよう、心がけねばなら
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