「エンジンは、かかっているのですが……」
「そばへいって、車体を叩《たた》いて、聞いてやれ」
「はい」
 萱原准尉が、とんでいって、いわれたように車体を上からどんどん叩いた。
「おい、岡部伍長、どうした?」
 ところが、それには返事がなかった。
 しかしそのとき、エンジンの響は、さらに一段と大きくなった。全馬力《ぜんばりき》を出しはじめたものらしい。
「おい岡部。どうした!」
 かさねて、萱原准尉が、とんとんと車体を叩いた。
 然《しか》し、応《こた》えはない。
 そのうちに、准尉は、びっくりしたようなこえをあげた。
「おや、これは、へんだぞ」
「どうしたのか、萱原」
「ああ、そうか。車体が廻っているのです。車体が左に廻っております」
「なに、車体が左へ廻っている。それはたいへんだ。それじゃ、宙返《ちゅうがえ》りをやっているのじゃないか。飛行機じゃあるまいし、戦車の宙返りは、感心しないぞ。岡部伍長、なにしとる!」
 そのうちに、戦車の排気管から、赤い煙が濛々《もうもう》と出て来た。そしてエンジンが、ぱたりと停ってしまった。少佐は、それをみて、大きくうなずき、
「ああ、あれは危険信号
前へ 次へ
全92ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング