えなければ……」
と、彼は、がんばりはじめた。
だが、その日も正午になったが、彼が睨《にら》んでいる方眼紙の上には、やはり一本の線も引かれなかった。
こうした日が、三日間続いた。しかも彼は、方眼紙の上に、あいかわらず一本の線も引くことができなかった。頭をつかいすぎたことと、夜眠られないためとで、さすがの彼も、半病人のようになってしまった。
その日の午後、加瀬谷少佐から電話がかかってきて、すぐ部屋へ来いということだった。はい、まいりますと応《こた》えたものの、岡部は、たいへん憂鬱《ゆううつ》だった。きっと隊長は、三日間の結果を報告しろといわれるであろうが、彼は、報告すべき何物ももっていなかった。報告すべき何物もないということは、遊んでいたと同じだと思われても仕方がない。彼は、いやでいやで仕様《しよう》がなかったけれど、隊長に命令で呼ばれて、いかないわけにもいかなかったので、唇をかみしめながら、隊長室の扉を叩いた。
加瀬谷少佐は、待っていた。そこへ入っていった岡部の顔を見ると、少佐は、いちはやく万事《ばんじ》を察したが、それとは口に出さず、
「おい岡部。わしのところへ、このような
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