《はず》がない。だからこれはきっと、空中から落下傘で、もぐらを下《お》ろしたのであろう。
 その目的は、どんなことか、さっぱりわからないが、あの怪火は、落下傘隊員がふりまわしたものであろう――と、まことしやかに報じていた。
「あれは、おかしかったなあ。――しかし、それはそれとして、おれはやっぱりもぐらを基本とした地下戦車を設計するぞ」
 岡部伍長は、自信あり気に、独言《ひとりごと》した。


   方眼紙《ほうがんし》


 岡部伍長は、仕事はじめの夜に、窓から見たまんまるい月のことを、いつまでも忘れられなかった。
 その夜、彼は午後九時まで、地下戦車の設計に、頭をひねったのであった。その結果、どんなものが出来たであろうか。岡部の机のうえには、大きな方眼紙《ほうがんし》がのべられ、そのそばには、さきをとがらせた製図鉛筆が三本、置かれてあったが、午後九時、彼が寝台《しんだい》へ立つまでに、その方眼紙のうえには、一本の線も引かれはしなかった。
「むずかしい。とても、むずかしい!」
 さすがの岡部伍長も、太い溜息《ためいき》とともに、憂鬱《ゆううつ》な顔をした。
 ふだん、こんなものが出来た
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