たか。
岡部一郎ひるまず
岡部一郎はなぜ、もぐらをとっているお百姓さんを見て、よろこんだのか。
彼は、廃品回収車を、道ばたへおき放しにして、そのお百姓さんのところへ、のこのこと近づいた。
お百姓さんは、一郎のすがたを見ると、手を左右にふっった。
「あれッ、そばへいっちゃ、いけないのかなあ」
もぐらが、一郎にかみつくといけないと、お百姓さんは、しんぱいしているのであろうか。そんなことなら、何がこわくあるものかと、一郎は、かまわず、お百姓さんの方へ歩いていった。お百姓さんは、また手を左右にふった。
「あれッ。ぼくが来ちゃ、いけないんですかね」
「なに? 来ちゃいけないというわけじゃねえが、今日はなにもお払《はら》いものがないということさ」
お百姓さんは、岡部一郎が、廃品回収屋の腕章《わんしょう》をつけているのを見て、てっきりお払いものはないかと、ききにきたのだと感ちがいしたのだ。
「ああ、そうですか。おじさん、ぼくは、屑やお払《はら》いものを、うかがいに来たわけじゃありませんよ」
「へえ、お払いをききに来たのじゃないのか。じゃあ、葱《ねぎ》でも、分けてくれというのか
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