穴からとびだした。
なにごとが起ったかと、泉水の方をこわごわみていたお邸《やしき》の連中は、泉水の中から、いきなり、泥まみれの小僧《こぞう》が、シャベルとつるはしとをもってとびだしたものだから、きもをつぶしてしまった。奥へ逃げこむ者、その場にへたばる者、わめきちらす者のある中を、一郎は、自分の家の庭に生えている大きい欅《けやき》の樹を見当にして、まっしぐらに走りだした。そして、お邸の垣根をこえて、自分の家の庭へ、とびこんだのであった。
人間地下戦車事件の終幕だった。
人間地下戦車が、お隣りの鬼河原邸の泉水《せんすい》をこわしてしまったので、岡部一郎は、たいへん叱られた。
そのあげく、とうとうシャベルもつるはしも、一郎から取り上げられてしまったので、彼は、当分おとなしくしなければならなかった。しかし彼は決して、地下戦車をこしらえ地下戦車長になることを断念したわけではなかった。国防のために突進しようと決心した彼であった。誰に叱られようと、退却するようないくじなしの岡部一郎ではなかった。
信越線
さて、それから月日がながれた。そして、冬となった。
会社の主任の小田さ
前へ
次へ
全92ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング