きゃーっという悲鳴が、彼の耳をうった。
「怪物だァーおい、逃げろ」
 という声も聞えた。
 だが一郎は、あまりに眩《まぶ》しくて、しばらくは何も見えなかった。なんだか、ひろびろとした世界へ出ているらしいことはわかったけれど……。
「こりゃ怪物、そこうごくな。そちに、あいたずねるが、貴公は人間の性《しょう》をもったる者か、それとも、河童《かっぱ》のたぐいであるか。正直に、返答をせよ」
 へんな言葉づかいの声が、岡部一郎の耳にきこえてきた。そのとき彼は、もう観念してしまった。ようやく事情が、はっきりしたのであった。地中を掘ってゆくうち、そういうことのないように気をつけていたつもりであったけれど、とうとうお隣りの鬼河原邸《おにがわらてい》の泉水《せんすい》をこわしてしまったのであった。すなわち今彼に向って「やあやあ汝《なんじ》は人間の性《しょう》か河童のたぐいか」とどなっているのは、鬼河原家の三太夫《さんだゆう》氏の声にちがいない。
「えらいことを、やってのけたぞ。三太夫さんがびっくりしているうちに早いところ逃げないとたいへんだ」
 一郎は、ふたたび、
「うわーッ」
 と、声をあげると、
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