。
「これは、へんだ。ひょっとすると……」
と思っているうちに、その天窓《てんまど》が急にくらくなったかと思うと、大きな黒い材木のような怪物が落ちてきた。そして、一郎の足許で猛烈にあばれだしたから、さあ、たいへんであった。一郎の顔も服も、泥水をぶっかけられて、目もあけていられない。跳ねている怪物は、目の下半メートルもあろうという大鯉《おおごい》だった。
天井から、奔流《ほんりゅう》する水は、ものすごく、まるで天竜川《てんりゅうがわ》のようであった。一郎の膝の下は、たちまち水の中につかってしまった。そうなると、もう、逃げだすことも出来なかった。逃げだす路は、天井にあった穴のほかはなかった。
水は、いいあんばいに、腰のところでとまり、それ以上はふえなかったから、一郎は、かろうじて溺死人《できしにん》とならないですんだ。
彼は、シャベルとつるはしとを力にして、ずるずるする斜面を、天窓の方へのぼっていった。そこには、もう一郎の身体のはいるだけの大きな穴があいていた。
「よっこらしょ、よっこらしょ」
一郎は、斜面をのぼっていった。そしてついに、その天窓から、首を出してみた。
「うわッ」
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