げんな顔で上の様子をうかがっていると、そのうちに壕の中が俄《にわ》かに明るくなった。
「おやおや、へんだな」
 と思っていると、足許《あしもと》が、はっきり見えるではないか。手提電灯《てさげでんとう》の光で見えるのではない。もっと白々《しらじら》と、はっきり見える。そのうちに、壁をつたわって、なにかしら、いやに赤いものが、ちょろちょろと流れおちてきた。
「おや、いやに赤いものが、流れてきたぞ。このあたりは赤土の層だというが、いくら赤土にしても、すこし赤すぎるようだが……」
 と、一郎は、ふしぎそうに、自分の足許へ流れて来たその赤いものを見ていると、それが、ぴんぴんと跳《は》ねだしたではないか。
「あれェ、赤土が、跳ねるなどということが、あるだろうか。赤土が、魚になったのかしら……」
 と、一郎は、まだ気がつかない。
「ほう、金魚のようだぞ。地下金魚――なんてものが棲《す》んでいるのだろうか」
 一郎は、また顔をあげて天井を見たが、そのとき、大きな音がして、天井の土が、どしゃりとくずれた。
「あっ!」
 と、一郎が、とびのくのと、天井に、ぽっかりと明るい窓があくのと、ほとんど同時であった
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