そして万年筆を握って、何か書き出した。
「未来の地下戦車長、岡部一郎」
筆墨《ひつぼく》はなくても、未来の地下戦車長、岡部一郎と書くことをお休みにすることはできない。
そのうちに、小田さんが、目をさました
「おやおや、もう習字をやっているね。そのうちにやめるかと思ったがなかなかつづくね。全く感心だ」
小田さんは感心をして、未来の地下戦車長のために、朝の弁当を買ってくれた。
除雪車を見たのは、その日のお昼ごろであった。汽車は、雪のため、昨夜来《さくやらい》、やや速力がにぶってきたが、とうとう午前十時ごろには、雪の中に停ってしまった。そして、向うから除雪車が来るのを待つこととなった。
二時間ぐらいたって、
「ああ、来た来た。ロータリーだ」
と、人々がさわぎ出したので、一郎はまだぐうぐうねむっている小田さんをゆすぶり起して、外へ出た。線路の横の雪山のうえにのぼると、除雪車が黒煙《こくえん》をあげつつ、近づくのが見えた。ロータリーだ。ロータリーに当って、雪は、まるで爆布《ばくふ》[#「爆布」はママ]のようにうつくしく横へはねとばされる。壮観《そうかん》とは、このことであろう。中空《ちゅうくう》にかかる雪の爆布[#「爆布」はママ]は、だんだんと近づいてきた。こっちからは、車体はすこしも見えない。見えるのは、ただ雪と煙りとだけであった。
除雪車が、そばまで来て停ったので一郎は、はじめて、除雪車の構造をよく見ることが出来た。ロータリーの歯車は、ぴかぴか光っていた。雪をはじめにかきこむ鋤《すき》は、ものすごく大きくて、前へ廂《ひさし》のように出ていた。一郎は、時間のたつのも忘れて、じっと見つめていた。
掘出した扇風機
新潟県から帰ってきて、一郎はすっかり考えこんでしまった。除雪車が、あんなに壮観なものとは考えていなかった。そして、つよい蒸気の力を借りて、たくさんの雪が、みるみる跳《は》ねとばされていくところなどをみていると、地下戦車も、かならず出来なければならないと感じた。
「地中を、あのロータリー除雪車のもっとしっかりしたようなもので、どんどん掘っていったら、きっとうまくいくかもしれない」
一郎は、なんとかして、そういう機械をつくってみたくて仕方がなかった。
しかし機械をつくるには、たくさんのお金が入用《いりよう》であった。機関車一台でも、一万円ちかくかかるのであった。一万円などという大金を、一郎がつくれるはずがなかった。だから、ざんねんながら、まにあわせに、模型《もけい》でもつくってみるほかないと思った。
さて、模型をつくるにしても、なかなか費用がかかる。一郎のように、貧乏な家の子供は、お金のかかることなんか、出来ないのであった。といって、このまま指をくわえて引込《ひっこ》んでいるわけには、いかなかった。
一郎は、いろいろと思いなやんだ。ひとつ会社をやめて、もっと儲《もう》かる仕事をはじめようかしら。
彼は、発明王エジソンの少年時代のことを思い起こした。エジソンの家も、たいへん貧しかった。しかし少年エジソンは化学の実験がたいへんすきで、もっともっと、自分の思うように、それをたくさんやってみたくて仕方がなかった。そこでエジソン少年は、まず新聞売子になった。新聞を売って、それで儲《もう》けたお金で、たのしい実験につかう薬品を買うことにしたのであった。エジソンは、新聞を汽車の中や駅で売ったのであった。
そのうち、エジソンは、自分で新聞を発行することを考えた。その方が、たくさん儲かるからであった。彼は、汽車の中の一室を、その新聞の発行所にあてた。彼の新聞は、よく売れた。それで、彼の思うような薬品が買えた。彼は汽車の中で、化学実験をつづけたのであった。くるしいけれども、たのしい日が、エジソンのうえにつづいた。或る日、汽車が揺《ゆ》れた拍子《ひょうし》に車内の薬品棚《やくひんだな》から、燐《りん》の壜がおちてこわれ、たちまち燐は空気中の酸素と化合をはじめ、ぼーっと燃えだした。火事だ。汽車の中に火事がはじまったのである。火事を出したおかげで、彼は新聞を発行することが出来なくなってしまった。――そんなことを、エジソンの伝記でよんだことがあった。
「よし、僕は、やるぞ!」
エジソンのように、彼も自力《じりき》で働こうと思った。そしてもっと、たくさんのお金を儲け、そしてもっとたくさんの時間を、地下戦車の研究につかえるようにしたいと考えた。
小田さんは、一郎の決心をきいて、いろいろと止めたけれど、彼の決心はつよかった。そして彼は、とうとう廃品回収屋さんを始めることとなった。一郎の母親をときふせることは、小田さんにたのんだ。
かがやかしき(一郎にいわせると)新体制への発足《ほっそく》であった。
廃品回収屋さんとい
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