の函を大事にして、いつも身のまわりから放さなかったわけも、これでわかった。
「おお工藤。ありがとう。おれは、きっと完成してみせるぞ。ああ、ありがとう」
岡部伍長は、思わずお札《ふだ》の入った函を、頭の上におしいただいた。
大団円
あらたに設計された地下戦車第二号は、それから一ヶ月のちに、実物が出来上った。
これから半年もかからなければ出来まいと思われたのに、僅《わず》か一ヶ月で出来上ったのには、或るわけがあった。
そのわけというのは、外《ほか》でもない、国際情勢が急に悪化《あっか》したからである。かねて○○国境方面に、世界最大を誇る大機械化兵団を集中中であった○○軍は最近にいたりついにわが皇軍陣地《こうぐんじんち》に対して、露骨《ろこつ》なる挑戦をはじめるに至り、しかも○○鉄道は、その方面へ、ぞくぞくと大兵力を送っていることが判明した。そこでいよいよここに、○○国境を新戦場として、互《たがい》に誇《ほこ》りあう彼我《ひが》の精鋭機械化兵団が、大勝《たいしょう》か全滅《ぜんめつ》かの、乾坤《けんこん》一|擲《てき》の一大決戦を交えることになったのである。そこで、機械化部隊を、さらに高度に強化する必要にせまられ、地下戦車の試作も急にいそがれることになったのであった。
試作が出来上った岡部式の地下戦車第二号は、前回と同じく、某県下《ぼうけんか》の演習場へ引出された。
暁《あかつき》を待って、覆布《おおい》がとりのぞかれると、その下から、地下戦車はすこぶる怪異《かいい》な姿をあらわした。
「ほう、前回の地下戦車とは、まるで形がちがってしまったな」
と、感歎《かんたん》の声を放つ見学の将校もいた。
こんどの地下戦車は前のものよりも、すこし重量を増して、四十トンちかくとなったが、これは主として原動機を三個に分けたためであった。
岡部伍長と工藤上等兵のほかに、もう二名の兵があらたに、この中にのりこんだ。
加瀬谷少佐は、この日、ことの外《ほか》、にこにこしていた。こんどこそ、この地下戦車はうまくうごくであろうと見極《みきわ》めていたからだった。
「地下戦車第二号、出発します」
岡部伍長は車上から上半身を出して、加瀬谷部隊長の方へ報告した。少佐は、手をあげた、伍長は挙手の礼をして、旗をふると、姿を車内に消した。外蓋《そとぶた》が、ぱたんと閉じられた
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