いいびきだな)
巡視の士官《しかん》は、苦笑をして、後に従っている下士官《かしかん》をふりかえった。
(は、よく寝とります)
すると岡部は、むにゃむにゃと口をうごかし、(……あ、そうか。もぐら君、君の鼻に、錐《ドリル》を直結すれば、よかったんだな。なあんだ、わしゃ、そこに気がつかなかったよ。はははは)
と、気味のわるいこえをたてて、岡部は笑った。そして、とたんに、くるりと、寝がえりをうって、また、ぐうぐうと寝こんでしまった。
士官と下士官とは、思わず目と目を見合わせた。
(夢を見て、寝言をいっとるようじゃが、あれは一体なんじゃ)
(さあ、もぐらがどうとかしたといっておりました。報告書に書いて置きますか)
(ふむ。――いや、それにもおよばん。毛布《もうふ》をよくかけといてやれ)
熱心な投書
巡視の士官たちが、戸口から出ていってしまうと、岡部は、その物音に夢をやぶられたか、ぱっと毛布をおしのけて、寝台のうえに半身をおこした。
「ああ、成功。大成功だ。すばらしい考えを思いついたぞ!」
彼は、寝言ではなく、はっきりとものをいって、いそいで寝台を下りた。上靴《じょうか》をつっかけて、彼は、とことこと歩きだしたが、五六歩あるいて、急にはっとした思いいれで、その場に立ちどまり、
「……忘れないうちに、いまのすばらしい発明を手帖に書きとめて置かなければならないと思ったが……ちぇっ、なあんだ、ばかばかしい。わはははは」
彼は、だれも見ていないのに、きまりわるげに、あたまを、ガリガリとかいて、寝台の方へ廻れ右をした。そしてまた、毛布の中に、もぐりこんだ。
「ちぇっ、夢だったか、ばかばかしい。行軍していると、水車小屋のかげから現れたもぐらというのが、体の大きいやつで牛ぐらいあるもぐらの王様だったから、こいつは使えるなと思ったんだ。そのもぐらの先生め、わしの鼻に廻転錐《かいてんきり》を直結しなさいという。なるほど、これは何というすばらしい考えだと……いや、目がさめてみれば、あれまあ、なんというばかばかしい夢をみたもんだな! な、なあーんだ」
彼は、毛布の中で、くっくっと、いつまでも笑いがとまらなかった。
その夜は明けて、翌日となった。
岡部伍長は、腫《は》れぼったい瞼《まぶた》をこすりながら、また自分の机にかじりついた。
「きょうこそは、なんとか形をこしら
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