らいいだろうと思うがとか、そいつは、こんな恰好《かっこう》のものになるだろうとか、頭の中で、あそび半分に考えているときは、思いの外《ほか》、まとまった或る形が、うかびあがってくるものだが、さあ本当にこしらえてみよということになると、手をつけるのに、なかなか骨が折れる。
それはそのはずである。実際につくるとなると、車輪一つのことだって、正しい知識が入用《いりよう》になるのだ。錐《きり》をつかえばいいと分っていても、しからば、実際にはどんな形の錐にすればいいのか、その錐をうける土のかたさは、どんな抵抗を生《しょう》じるものであろうか。錐をうごかす動力は、どのくらい入用で、どんなエンジンを使えばいいか等々、かぞえ切れないほどの問題が出てくるのであった。
それだけではない。こっちをたてると、あっちがたたないことがまた問題となる。土をけずる錐は、大きいほどいいわけだが、錐を大きくすると、こんどは地下戦車自身が大きなものになって、地下の孔《あな》をくぐることがむずかしく、速度も出なければ、馬力ばかりたくさん要《い》って不経済のようにも思う。こっちをたてて有利にすれば、あっちがたたなくなって不利となるのだ。
「うわーい、いやになっちまうな」
岡部伍長は、線一本引いてない方眼紙の上をにらみつけながら、丸刈《まるがり》のあたまを、やけにガリガリとかいて、寝所《しんじょ》へ立った。
寝台へもぐりこんだが、もちろん岡部伍長は、ねむられなかった。
「ええと、どうしてやるかな。形は、どうも土龍式《もぐらしき》がいいと思うのだが……」
もぐらの鼻の代りに、円錐形《えんすいけい》の廻転錐《かいてんきり》をつかうのがいいと、はじめから思っていた。しかしそれをどうして廻すか。それを廻して、はたして土はけずれるか。けずれても前進するかどうか。それから第一、廻転錐を廻す動力をどうするのか。また、けずりとられた土をどうするのか。――岡部伍長の頭の中は、麻のようにみだれた。
みなさんだったら、このような問題を、どう片づけますか?
岡部伍長は、寝ぐるしい一夜を送った。
彼は、すこしも睡《ねむ》れなかった――と思っていた。
しかし、夜中に営内の巡視《じゅんし》が、彼の寝ている部屋へも廻ってきたとき、彼、岡部伍長は、たしかに眼をとじ、ごうごうといびきをかいて寝ていたそうである。
(この男は、えら
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