りだったが、この失敗のために電動機の捲線《けんせん》をすっかりやりなおさなければならないことになった。
 失敗は失敗だが、彼の地下戦車研究は、一段とすすんだのであった。
「どうも、あのロータリーは、まずいやり方だ。除雪車なら、雪を外へはねとばしただけでいいんだが、地下戦車となると削《けず》った土は、自分が掘った穴へすてるしかないんだから、もっと考え直さなくては、だめだ。、どうしたら、いいかしら」
 一郎は、失敗に屈《くっ》しないで、もう次の研究を考えていた。地下戦車は穴を掘るだけでなく、削《けず》った土をどこにやるか、その始末をよく考えておかないと、実用にならない。
 これは中々むつかしい研究問題である。一郎は、廃品回収の車をひきながら、それについていろいろと頭をしぼったが、どうもいい工夫がなくて困っていた。
 そのうちに、春になった。
 春にはなったが、地下戦車の問題は、一向すすまなかった。ところが或る朝のこと、彼は郊外を歩いているうちに、思いがけないおもしろいものを見つけた。
 お百姓のおじさんが、もぐらを捕《とら》えているのであった。畠をあらすもぐらが、なぜそんなに彼の注意をひいたか。


   岡部一郎ひるまず


 岡部一郎はなぜ、もぐらをとっているお百姓さんを見て、よろこんだのか。
 彼は、廃品回収車を、道ばたへおき放しにして、そのお百姓さんのところへ、のこのこと近づいた。
 お百姓さんは、一郎のすがたを見ると、手を左右にふっった。
「あれッ、そばへいっちゃ、いけないのかなあ」
 もぐらが、一郎にかみつくといけないと、お百姓さんは、しんぱいしているのであろうか。そんなことなら、何がこわくあるものかと、一郎は、かまわず、お百姓さんの方へ歩いていった。お百姓さんは、また手を左右にふった。
「あれッ。ぼくが来ちゃ、いけないんですかね」
「なに? 来ちゃいけないというわけじゃねえが、今日はなにもお払《はら》いものがないということさ」
 お百姓さんは、岡部一郎が、廃品回収屋の腕章《わんしょう》をつけているのを見て、てっきりお払いものはないかと、ききにきたのだと感ちがいしたのだ。
「ああ、そうですか。おじさん、ぼくは、屑やお払《はら》いものを、うかがいに来たわけじゃありませんよ」
「へえ、お払いをききに来たのじゃないのか。じゃあ、葱《ねぎ》でも、分けてくれというのか
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