ー車を置いた。そして、かねて買い込んでおいた夜店用《よみせよう》の防水電纜《ぼうすいコード》を、家の中から庭まで引張り、その端《はし》に、扇風機のプラグをさしこんだ。あとは、途中につけてあるスイッチをひねれば、このロータリー車は、雪を切るはずだった。
一郎は、もううれしくてうれしくて、ひとりでに、自分の顔が笑いだすので困ってしまった。
「さあ、ロータリー式地下戦車、進めッ!」
一郎は、そういって号令をかけると、スイッチを押した。すると、はたして、扇風機――ではないロータリー地下戦車は、まわりだした。雪は八方にとびちった。
「しめたしめた。これで、雪の中を前進すればいいんだ。機関車の代りに僕が押してみよう」
一郎は、ぶんぶん廻っているロータリー車のうしろを手でもって、積りつもって堤のようになっている雪の横腹《よこっぱら》へ、
「進め、進め!」
と、ロータリー車を押しつけた。
ぱちぱちぱち、ぴちぴちぴち。
ロータリー車は、そんな音をたてて、積った雪の中へ、まるまるとしたトンネルを掘るのであった。
「ああ、愉快だ。ああ、愉快だ」
他人が見たら、一向おもしろくないことを、一郎は、愉快でしようがないという風に見えた。彼が、小一時間あまりも、それをつづけているうちに、どうしたわけか、ぷーんとへんな臭いがしてきたではないか。
「おやッ、へんな臭《にお》いだぞ。ゴム線が燃えるような臭いだ」
そのとき、彼は、やっと気がついた。ロータリー車を手許へひきよせ電動機の上にさわってみると、
「あつッ」
手がつけられないように熱い。そして、ぷーんと、ゴム臭《くさ》い臭《にお》いがし、白い煙が電動機の中から、すーっと昇っていることに、始めて気がついた。
「し、失敗《しま》った。電動機を焼いてしまった」
と、叫んだが、もう後《あと》の祭《まつり》だった。
電動機は、いつの間にか、まわらなくなっていた。どうして、こんなことになったのか。
後で、一郎が考えたところによると、これは、電動機が、むりやりにひどい仕事をさせられたため、焼けてしまったのであった。このような小さい電動機に、雪をかかせるのは、むりであった。雪がやわらかいうちはいいが、雪が固くなると、とてもいけない。そのうちに、線と線との間に火花がとんで、全くまわらなくなったわけである。
彼は、あとでまた扇風機になおすつも
前へ
次へ
全46ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング