ね」
「ちがいますよ。そのもぐらのことですよ」
一郎は、お百姓さんの足許《あしもと》にころがっているもぐらを指した。
「このもぐらに、用があるのかね。ははあ、商売ぬけ目なしだ。もぐらの毛皮を売ってくれというのだろう」
「ああそうか。もぐらの毛皮は貴重な資源だな」
と、一郎は、一つものおぼえをしたが、
「ねえ、おじさん。ぼくは、もぐらの毛皮よりも、もぐらが、どうして、土を掘るのか、それを知りたいのです。どうぞ、おしえてください」
それをきいて、お百姓さんは、おどろいて目をまるくした。
「なんじゃ、もぐらが、どうやって、土を掘るか、知りたいというのか。なるほど、お前さんは、まだ子供だから、なんでもめずらしくて、そんなことが知りたいのだな」
「そうじゃありませんよ。ぼくは、今、地下戦車をこしらえようと思って、一生けんめいになっているんです。だから、土掘りの名人のもぐらのことを、ぜひ勉強して、出来れば、もぐら式の地下戦車をこしらえてみたいなあ」
一郎のいうことは、一郎にはわかっているが、お百姓さんには、ちんぷんかんぷんだった。第一、地下戦車なんてものは何だか、さっぱり見当がつかない。ただ、この少年が、理科ずきと見え、たいへんねっしんに、もぐらの話をききたがっていることだけは、わかった。
「このもぐらというけだものはこんなかわいい顔をしているが、悪いやつじゃ」
と、お百姓さんは、足で、もぐらの腹を、ぽんとけった。もぐらは、くるっと腹を上に出した。もぐらは、すこしもうごかない。
「このもぐらは、死んでいるの」
「うん、もぐらは、すぐ死ぬるよ。お陽さまにあたれば、すぐに死んでしまうのだよ。だから、昼間はじっと土の中に息をころしていて、夜になると、ごそごそうごきだして、作物をあらすわるい奴じゃ」
お百姓さんは、もぐらの悪口ばかりをいった。しかしもぐらは、畑の害虫をたべるから、お百姓さんのためにもなっているのだ。
「おじさん、もぐらは、どういう具合に、土を掘るの」
一郎は、大事なことを、たずねた。
「さあ、それはよく知らんねえ。しかし、もぐらの鼻は、かたくて、ほら、こんなにとがっているだろう。それから前脚なんか、こんなに掌《て》が大きくて、しかも外向《そとむ》きについているだろう。つまり、鼻と前脚とで、やわらかい土を掘るのにちがいないよ」
お百姓さんは、自分の知ってい
前へ
次へ
全46ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング