蒸《む》しするのも太陽の黒点《こくてん》のせいだよ」と一番、入口のカーテンに近いところに背を向けて腰を下ろしている理科大学の星尾助教授が言って、麻雀の牌《こま》をガチャガチャと、かきまわした。
「太陽の黒点なんか蹴っとばせ、てえんだ。――やあ、いいものを引っぱってきた」と機嫌のよいのは、仲間の一人で、星尾助教授の対門《むかい》にいる慶応ボーイで水泳選手をやっている松山虎夫だった。
「今日は、ちっともいいのが来ないわ」と松山の左手に坐っていた川丘みどりが、真紅に濡れているような唇をギュッと曲げて慨《なげ》いた。そして象牙《ぞうげ》のように真白で艶々《つやつや》しい二の腕をのばして牌《こま》を一つ捨てた。
「それで和《あ》がりだ」と叫んで、自分の手を開けてみせたのは、「豆シャン」と綽名《あだな》のある美少年|園部壽一《そのべじゅいち》だった。少年といっても彼は大学の建築科二年だから、仲間の男の中では一番若かったが、川丘みどりは十九だったからこれよりは兄さんだった。
「園部さん、窓をあけてよ、暑いわ」みどりが「お狐《きつね》さん」と綽名《あだな》されているすこし上《あが》り気味《ぎみ》の腫《は》れ瞼《まぶた》をもった眼を、苦しそうにあげて云った。一番隅っこに居た園部は、立って窓をカタカタと上げた。強い風が窓からサッと吹き流れてきた。
ちょうど其の時、卓子《テーブル》の一つが明いたので、帆村はその仲間に入れて貰って競技を始めた。その席は、例のお仲間の卓子を正面に見るようなところだったので、彼は牌《こま》を握る合間《あいま》合間に顔をあげて、星尾助教授の手の内を後からみたり、川丘みどりの真白な襟足《えりあし》のあたりを盗《ぬす》み視《み》して万更《まんざら》でない気持になっていた。
それから帆村は、だんだんと競技に引き入れられて行ったので、例のお仲間連中の行動を一から十まで観察するわけには行かなかったが、あとから考えると、次に述べるようなことが、気にならないこともなかった。
第一は、麻雀ガールの豊ちゃんが入ってきて、星尾助教授の背後《うしろ》によりかかり、永い間積極的な態度をとっていたこと、それに対して星尾は、すこし迷惑らしい態度をしているのを知っておかしかった。
第二は、松山がスポーツ好《ごの》みで、
「ええいッ」
と大声をあげて場に積んである麻雀牌《こま》をひっ
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