い軍艦を御建造願いたいのであります。一体そういうものが、博士のお力によりお出来になりましょうか」
これに対して、博士の返答は、もとより聞かれなかった。しかし特使は、失望することなく、いやむしろ相当の自信ありげに、金博士が怪《あや》しき燻製肉ノクトミカ・レラティビアの見本全部を喰べ終るのをしずかに見まもっているのであった。
3
卓上の一切を平《たいら》げ終ったとき、金博士は嵐のような溜息《ためいき》を立てつづけに発したことであった。
今までに博士が、燻製肉を喰べて、こんな大袈裟《おおげさ》な溜息をついたことは一度もなかった。ということは、恐《おそ》るべき忌《いま》わしき妖毒《ようどく》が、今や金博士の性格を見事に切り崩《くず》したその証左《しょうさ》と見てもさしつかえないであろうと思う。
「うふふん。じ、実に美味《びみ》なるものじゃ。珍中の珍、奇中の奇、あたかもハワイ海戦の如き味じゃ。うふふん」
と、博士が暫《しばら》くめに、感にたえたようなことばを吐いた。
「そんなにお気に召すなら、見本として、もっと持参してまいりましたものを」
「そうじゃったなあ。君も特使の
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