化《でんこうせっか》と使いわけて、あやしげなる赤味をおびた肉の一片を、ぽいと博士の口に投げ入れるなれば、かねて燻製ものには嗅覚《きゅうかく》味覚《みかく》の鋭敏《えいびん》なる博士のことなれば、うむと呻《うな》って、思わずその一片を口の中でもぐもぐもぐとやってみると、これが意外にも大したしろものであった。燻製|通《つう》の博士がこれまでに味わった百十九種の燻製のそのいずれにも属せず、且《か》つそのいずれもが足許《あしもと》にも及ばないほどの蠱惑的《こわくてき》な味感《みかん》を与えたものであるから、かねて燻製には食《く》い意地《いじ》のはったる博士は、卓子《テーブル》の上に載っている残りのノクトミカ・レラティビアの肉を一片又一片と口の中に投《ほう》り込む。
してやったりと、傍《かたわら》においてにんまり笑ったのは、かの特使であった。このノクトミカ・レラティビアの燻製肉こそは、カナダの国境附近の産になる若鹿《わかしか》の肉にアマゾン河にいる或る毒虫《どくむし》の幼虫《ようちゅう》を煮込《にこ》み、その上にジーイー会社で極超短波《ごくちょうたんぱ》を浴《あび》せかけて、電気燻製とし、空前
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