い。と、そういって伝えてくれ」
「えっ、不沈軍艦一隻と大統領の眼鏡との交換だと仰有るのですか。それは又、慾のない話です。ああわかりました。絵に描いた不沈軍艦を渡してやろうというのでしょう」
「ちがう。わしは嘘をいわん。真正真銘《しんしょうしんめい》の九万九千トンの巨艦だ。立派に大砲も備《そな》え、重油《じゅうゆ》を燃やして時速三十五ノットで走りもする。見本とはいいながら、立派なものじゃ。あとはそれを真似《まね》て、それと同じものをアメリカでどんどん建造すればよろしい。わしを信用せよ」
「ほ、本当でございますか。ほほほっ、それはまた夢のようだ。すると、やがてわがアメリカは九万九千トンの不沈軍艦を百隻作って、太平洋に押し出すのだ。こいつは素晴らしいぞ。では博士、早速《さっそく》ですがお暇乞《いとまご》いをして、急遽《きゅうきょ》帰国の上、神経衰弱症の大統領を喜ばしてやりましょう」
特使は、崩《くず》れ放《ぱな》しの笑顔を、両手で抑《おさ》えるようにして、あたふたと博士の研究室を出ていった。
4
月日のたつのは早いもので、早くも、あれから十ヶ月経った。
時|正《まさ》
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